犬や猫へのマイクロチップの埋め込みについて、あなたはどう思いますか?
海外のいくつかの国ではすでに義務化されている「マイクロチップ」ですが、日本においても動物愛護管理法の改正により犬猫への装着が義務化されました。
迷子対策や盗難防止ができると噂のマイクロチップですが、本当にそのような機能があるのでしょうか?義務化が施行される前にもう一度「マイクロチップ」について考えてみましょう。
そもそもマイクロチップとは?
マイクロチップとは簡単に言うと、身体に埋め込む身分証明書のようなものです。
大きさは直径は2mm、長さは8〜12mm。円筒の形をしていて内部にはIC(集積回路)、コンデンサ、電極コイルが組み込まれています。
外側は毒性や発がん性のない、生体への親和性に優れている「生体適合ガラス」が使われているため、動物への悪影響は少ないといわれています。
それぞれのマイクロチップに内蔵されているICチップには世界で唯一の15桁の番号が割り振られています。
15桁の番号は、このように4種類の番号によって構成されています。
- 国コード
日本の国コードは392番 - 動物コード
ペット動物は全世界共通で14番 - 販売会社コード
マイクロチップの販売会社を示した番号 - 個体識別番号
個体によって異なる番号
専用のリーダーで上記のデータコードを読み取り、あらかじめ「動物ID管理普及推進会議(AIPO)」に登録していた情報と照合することで、飼い主情報が開示されるシステムです。
AIPOとはAnimal Id Promotion Organization(動物ID管理普及推進会議)の略称で下記の4つから構成される組織です。
- (公財)日本動物愛護協会
- (公社)日本動物福祉協会
- (公社)日本愛護動物協会 からなる全国動物愛護推進協議会と
- (公社)日本獣医師会
マイクロチップによる犬猫の個体識別の普及・推進活動を行っています。
犬猫と飼い主の登録データは日本獣医師会のデータベースで管理されています。
世界の国々でも、マイクロチップ挿入の義務化や推奨がされています。
犬猫のマイクロチップ義務化はいつから?対象は?
2022年6月から、犬猫の販売を行うショップやブリーダーを対象に犬猫へのマイクロチップ挿入の義務化が開始されます。
販売業者以外の一般飼い主のマイクロチップ挿入は努力義務となります。
2019年の大幅な「動物愛護管理法」の改正でマイクロチップの装着義務化が決定しました。
マイクロチップの他にも動物虐待の罰則強化や、飼育管理基準の厳格化など様々な法案が施行されました。
マイクロチップ埋め込み方法と費用
マイクロチップは犬は生後2週齢、猫は生後4週齢から装着することが出来ます。マイクロチップを埋め込む大まかな流れをご紹介します。
- 動物病院でマイクロチップを挿入する
犬猫は一般的に首の後の皮下に埋め込みます。獣医療なので獣医師が必ず埋め込みを行います。 - 飼い主情報をAIPOに登録する
飼い主と犬猫の情報を書いたデータ登録用紙をAIPO事務局に送ります。 - AIPOより登録完了のはがきを受け取る
個人情報に変更がある場合は、その都度正確な情報をAIPO事務局に伝えましょう。
埋め込み費用は動物病院によって異なりますが、相場の5000円〜1万円程度にデータ登録費用の1000円が加わります。
マイクロチップの読み取り機は主に動物愛護センター、や自治体の保健所、動物病院などに設置してあります。
マイクロチップを埋め込むと出来ること
マイクロチップを埋め込むことで得られるメリットは主に以下の2つです。
- ペットの迷子対策になる
マイクロチップの読み取り機がある保護施設や動物病院に保護された場合は飼い主のもとにもどってこれる可能性があります。ただし、一般の人に保護された場合はそのまま飼われてしまうことがあります。必ず連絡先の記載がある首輪と併用しましょう。 - 盗難防止
盗難されたペットが自分のペットだということを証明することが出来ます。首輪と違って簡単に取り外しができません。 - ペットと海外旅行へ行ける
犬猫の日本への入国にはマイクロチップの装着が必要です。ただし、狂犬病ワクチン2回以上の注射など他にも多数の手続きが必要です。
犬猫へマイクロチップを埋め込むデメリット
一見、マイクロチップの挿入は完璧なペット迷子対策のように思えますが、マイクロチップには思わぬデメリットが隠れています。
ここでは、マイクロチップの犬猫への影響や、デメリット、危険性について詳しくお話していきます。
GPS機能はついていない
マイクロチップは個体識別のための番号が割り振られていますが、位置情報を探るGPS機能はついていません。
多くの飼い主さんがマイクロチップにGPSの機能がついていることを期待していますが、マイクロチップには個体識別用の番号しか振られていません。
つまりマイクロチップを入れていても、専用の読み取り機がある保護施設に連れて行ってマイクロチップを正常に読み取ってAIPOに飼い主データを照会しない限りペットの居場所を特定することは出来ません。
マイクロチップの注射は痛い?
ワクチンや予防接種よりも太い注射の針でマイクロチップを挿入するので、犬猫にとってはとても痛みを伴う行為です。
混合ワクチンなどの接種に使う直径0.5mmほどの一般的な注射針に比べて、マイクロチップの装着に使う注射針は約2.5mmと、一般的な注射針の約5倍もの太さがあります。
麻酔をかけていれば痛みはない、という話を聞きますが、麻酔自体が動物にとって負担が大きいということを忘れてはいけません。
実際に自分の愛犬にマイクロチップの注射をした人のお話を聞きました。
マイクロチップを入れる針がめちゃくちゃ太いです。意識のあるときにやるのは本当に痛いだろうなと思います。
自分の犬がマイクロチップを入れられる現場を見ました。キャインキャインと鳴いていてとても痛そうでした。生で見るとやはりとても太くてびっくりします...
そもそも異物を体内に入れること自体、犬猫の身体に違和感をもたらします。
それに加え、せっかく入れたマイクロチップが体内で移動してしまうことがあります。マイクロチップの体内移動について詳しくお話します。
マイクロチップが体内で移動・破損
マイクロチップは犬猫であれば一般的に首の後ろに埋め込みます。しかし首の後ろに埋め込んだはずのマイクロチップが体内の違うところに移動してしまうケースがあります。
身体の外側から触ってわかることもありますが、移動してしまうと居場所はほとんどわかりません。
マイクロチップが体内で行方がわからない状態ですと、以下のような事態が懸念されます。
- リーダーをかざしても読み取れない場合がある
- 保護した人がそのまま飼い続けてしまう場合がある
- 飼い主がいないと判断され、殺処分の対象となる場合がある
万が一迷子になったときに、保護先の読み取り機で反応がなければマイクロチップの挿入がない動物として扱われてしまいます。
そしてマイクロチップが読み取れない場合、「そのまま保護をする」のと「殺処分をする」の線引はなにを基準に誰がするのでしょうか?
実際にマイクロチップの行方が分からなくなり、病院に行ったらマイクロチップが破損していたというケースもあります。
触診でも、「皮膚から突き破って出てきてしまっているので、除去しないとダメですね」って事で
除去処置をお願いしました。
待合室で待つ事数分・・・。
呼ばれて診察室に戻ると、とんでもない事態になってました。
なんと、マイクロチップが破損してしまっていたのです
ナナゆいの日記:マイクロチップでの災難
マイクロチップは体内で移動するだけではなく、破損する可能性もあります。壊れたことに気づかなければいざという時役に立ちません。
マイクロチップも完璧ではないということを忘れてはいけません。
マイクロチップのない野良は殺処分対象?
マイクロチップ装着の義務化により、マイクロチップのない野良の生物は殺処分対象になるかもしれません。
いままで野良と思われていた猫に対して、「野良ではなく、飼い猫もしくは迷い猫かもしれないから安易に保護したり殺処分するべきではない」という主張が通りました。
しかしマイクロチップの装着が義務付けられればどうなるでしょうか?
飼い主がいないと分かってしまえば、引き取り手のいない猫として認識されてしまい今まで野良として生きてきた猫も「殺処分」の対象となってしまう可能性があります。
殺処分のシステムや動物処分を目的に動く人がいる日本では、マイクロチップ義務化による野良猫への影響はゼロとはいい切れません。
「マイクロチップ装着義務化」は果たして本当に殺処分を減らすための法律なのでしょうか?
体内に埋め込まれていても盗難されてしまうことがある
先程、マイクロチップのメリットの1つとして「盗難防止」をあげました。しかし「マイクロチップは体内に埋め込むから安心」という常識を覆す事件が2020年にアイルランドで起こりました。
2020年7月14日、アイルランドのニュースサイトで「イングリッシュ・スプリンガー・スパニエルの母犬と子犬が盗まれた」というニュースが掲載されました。
アイルランドのウェックスフォード州に暮らすパトリシア・ドイル(Patricia Doyle)さんは、イングリッシュ・スプリンガー・スパニエルのデイジー(Daisy)を飼っていた。デイジーは約8週になる子犬7匹を子育てしていた。
しかし2020年7月7日、犬泥棒に犬小屋の鍵が壊され、デイジーと7匹の子犬が盗まれてしまった。4日後、ダブリン動物虐待防止協会(DSPCA)によってデイジーは保護されたが、そこに子犬の姿はなかった。
デイジーは無事に帰ってきたと思われたが、首にはマイクロチップを抜くために切られたと思われる大きな傷跡があった。
デイジーは7匹の子犬を奪われたとともに、首には大きな傷をつけられ、自宅に戻った日の夜は身体を抱えたまま悲痛な声をあげていたという。
犬泥棒は子犬を売って利益を得ようとしていたのではないかと言われている。
パトリシアさんは現在、さまざまな子犬販売のブリーダーを探って盗まれた子犬の情報を探している。
出典:The Irish Post:Horror as dog stolen from Wexford found with microchip cut out of her skin
母犬のデイジーにはマイクロチップが埋め込まれていたものの、害悪な犬泥棒によって抜き取られ、大切な子犬までも奪われてしまいました。
身体に埋め込まれているからといって安全が保証されているわけではありません。
常識のない恐ろしい人間はたとえ体内にマイクロチップが入っていても、利益のためならば行動することが出来ます。
マイクロチップを埋め込まない選択肢について
ペットの身元を証明する方法は必ずしもマイクロチップである必要はありません。
マイクロチップにはペットの位置を確認できるGPSような機能はなく、単に15桁の番号を保存するだけの装置です。このためだけに生後4ヶ月にも満たない子犬に痛い思いをさせなければいけないのでしょうか。マイクロチップを装着しているからといって犯罪者が動物を標的にしないのでしょうか。
ペットと人間が幸せに共存できる社会を実現するために動物愛護法があるのであれば、
- 販売業者に犬の登録を義務化
- 首輪など体外へのICチップ装着の義務化
- 動物に対する犯罪のさらなる厳罰化
- ドイツのように犬税を設ける
を法律に明記すれば、動物に苦痛を強いるようなことはしなくても
- 迷子や震災への対策
- 飼い犬の証明
- 動物の遺棄防止
などには十分に繋がると考えます。
※愛犬大国のドイツには犬保有税という制度があり、徴収された税金は犬や愛犬家のために使われます。そして、ドイツではマイクロチップの義務化はされていません。
このように体内にマイクロチップを入れなくても動物の身元を証明する方法はあります。
改正動物愛護法の施行が決まった以上従わなければいけませんが、みなさんはマイクロチップ装着の義務化についてどのようにお考えですか?
Twitterでマイクロチップに関するアンケートとってみた
プードルのいるくらしのTwitterアカウントで「マイクロチップに対してどう思いますか?」というアンケートを取ってみました!
アンケートにご協力頂いた皆様本当にありがとうございます!
結果は「反対」という意見に一番多く票が入りましたが、「賛成」「もう挿入している」という意見も少なくありませんでした。
マイクロチップに関してもっと学び、愛犬・愛猫にとってどの選択肢が最善なのか今一度考えてみましょう。
まとめ
東日本大震災などの大きな災害もあり、マイクロチップの重要性を謳うサイトが最近増えてきました。
しかしその一点だけに注目して、賛同の意見に流されてしまっているサイトが多く、マイクロチップの本質を詳しく説明しているメディアはほとんどありません。
ペットへのマイクロチップ装着の義務化は決定しましたが、マイクロチップだけに頼らずに迷子や災害への対策をすることを強くおすすめします。
世界の大企業や財団、国連機関が参加するID2020プロジェクトや文部科学省の2025年に目指すべき社会の姿を読む限り、人間用のマイクロチップが義務化される日もそう遠くないかもしれませんね。